新・今日の絵(その18)

「わー、なんか変な時計!」
「むっ...」
「文字盤、真っ白で時間とかわかんなーい」
「つうかね、君、時計よりさ、もっと他に気になるとこない?」
「え?気になるとこって?」
「ほらさ、もっとほら、全体を良く見たらばさ...」
「あーっ、帽子がかわいいーっ!」
「そうだろーっ、そうだろーっ!」
「何でうさぎなんですかーっ?」
「はーっはっは、はーっはっは、ふーっふっふ、ふーっふっふ!」
「なんか、うざっ」
「あーっ、まってよ、行かないでおくれよーっ」
「だって、”はーっ”、とか”ふーっ”とか、まじうざい」
「すまん、けっこう嬉しかったので、もったいぶっちゃった」
「で?」
「うん、ああ、そうだったね、何で帽子にうさぎの刺繍がほどこされてるのかっていう話しだったね」
「えーっ、それ刺繍なんですかーっ?プリントとばっかり思ってたーっ」
「刺繍だよ。歯周でも死臭でも、なおのこと詩集ではないよ」
「....」
「ごめん、たいこ...」
「あ、博多の方ですか?」
「いえ、違います。で、何でうさぎ?との質問だったね?」
「ええ」
「それは私の名前が、うさ山うさ吉だからです」
「...」
「な、なんか言っておくれよう」
「そいじゃあ、うさ山さん、さようなら」
「さ、さようなら」
「あ、ちょっと待って。”うさ吉”ってさ、名前の方で呼んでくれないかな」
「なんで?」
「なんか、近しい感じがするでしょう?」
「そんなこと言ったって、初対面だもの。そんなに馴れ馴れしくはなれないわ」
「うさ吉悲しい」
「自分のこと、うさ吉って呼ぶの変じゃない?」
「変なんかじゃ、ないやーい!」
「お姉さんのバカバカバカーっ!」
といって、赤い帽子のおじいさんは森の奥へ向かって駆け出しました。
そうして川のところまで来ると一度こちらを振り向き、あっかんべーをしました。
わたしもあっかんべーを返すと、ちょっとくやしそうな顔を残して川をぴょんと飛び越えました。
すとんと向こう岸に着地したとき、おじいさんはうさぎの姿に変わっていました。
ぴょんぴょんぴょん...
去ってゆく白い小さな姿に向かってわたしは大声で呼びかけました。
「うさ吉ぃいいいいーっ!」
遠くて声が届かなかったのか、それともうさぎになったら人間の言葉が聞き取れないのかわかりませんが、うさ吉はそのまま駆けて行って、やがて見えなくなってしまいました。
「さて、なんで私がこうして60年も前にあったことをあなたに話しているのかといいますと。あなたがその時の、赤い帽子をかぶった老人にそっくりだからなんです。」
「ほお、わたしがねえ...」
「あなた、ほんとうはうさぎではないのかしら?」
「ははは...違いますよ」
「ふう、そうですよねぇ...」
「...」
「あの、今日、入所してこられたばっかりなのに失礼なんですけど...」
「なんでしょう?」
「あのう...あなたのこと”うさ吉”ってお呼びしてもよろしいかしら?」
「ええ、もちろんいいですよ」
「ありがとう」
と、館内にこの曲が流れる。