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「夢みる人」

19世紀は帝政ロシアの思想家にアレクサンドル・ゲルツェンっていう人がいる。
生涯にわたり “反・専制” 、 “反・農奴制” の活動を行ない、ときに「社会主義の父」と呼ばれたりする。
(ちなみに自伝がめちゃ面白くて、ルソーの『告白録』と並び称される)
この人が残した言葉で、胸がとっても熱くなったものがある。

「人々を動かすことは、その人たちの夢を、その人たちが自分でみれる以上に、はっきりと夢みることによってのみできるのであって、幾何の定理を証明するように、彼らの考えを証明してみせることによってできるのではない」

っていうのがそれだ。
この言葉に触れた時、西郷さんのことを思い出した。
西郷が”夢みる人”であったからだ。
西郷は夢をみた、と思う。
”はっきり”かどうかはわからないけど、”強く”、”遠く”にみた。
そして、その夢(=理想)の高さ、遠さ故に、数万の人が動き、
遠さ故に、敗れ去ったのだという気がする。

ここで参考に、めちゃ古いけど、竹内好の言。

「ひじょうに暴論ですけど、国家建設ということをいちばん大きな課題に置いた代表を大久保とすれば、この大久保に対立した西郷は、国家建設というものよりは別のものを目標にしたという感じがするのですがね。人間ということばで言っていいかどうかは問題だが、要するに人間が主であって国家は手段である、国家だけをりっぱにしてもだめなんだ、人間が幸福になり、社会生活が円満に営まれる様にしなければ行かぬという別の目標があったのじゃないかという様な気がする。」
(1970年、鶴見俊輔、色川大吉との明治維新をめぐる対談)

さて、続いてはいきなりゴッホ登場。
語るは小林秀雄です。
理想=夢としてお読みください。

「理想家という言葉は、ゴッホに冠せるには弱すぎる。というよりも所謂理想家は、自分の身丈に合わせた、恰好な理想論を捕らえるものだが、そういう理想ほど、ゴッホに遠いものはなかった。寧ろ、理想が彼を捕え、彼を食い尽くしたのである。理想に捕えられ、のたれ死にまで連れて行かれたトルストイは、理想の恐ろしさをよく知っていた。彼の定義に従えば、理想とは達することの出来ぬものだ、達せられるかも知れぬ様な理想は、理想と呼ぶ様な価値はないのである。(中略)スピノザもまた、別の言葉で理想を同じ様に定義している。『神を愛するものは、神から報酬を期待する事は出来ない』と。」

つまり、常に負け戦(いくさ)ってことだ。
ほんとうの、真の理(夢)想家は必ず敗者となる。

しかしながら、負けたがゆえに、その見事な負けっぷりが、
同時代人だけではなく、未来の人をも動かす。
永遠に動かすのだと思う。

夢を遠くにみて死んでいったゴッホや西郷、田中正造に中村哲...
彼らのおかげで、彼らがみた夢を糧として、今もなお我らは動く、絵を描き続ける。

我らが死んだとしても、その子どもたちが動くだろう。
その子どもたちが死んでも、またその子どもたちが...

実にありがたいことだ。

と、カッコつけた大業なことをのたまっておりますが、
長崎春個展の詳細は以下。
よろしく!

アジサカコウジ春個展2023
西郷さんシリーズII
「ETERNAL DREAMER~久遠の夢想家~」

日程:2023年4月1日(土)~23日(日)
( 会期中の金、土、日)
時間:13:00-19:00
場所:List:(リスト)
長崎市出島町10-15 日新ビル202
TEL :080-1773-0416

*会期中はたいてい在廊しております。

「小さきものの死」

十九の春、大学2年生。
熊本は銀座通りの紀伊国屋書店にプロレスか卑猥な雑誌を立ち読みしに行った帰りしなのことだったと思う。
出口に向かって歩いていたら後ろからぐいと両肩を掴んで引き寄せるものがある。
誰だ!と振り向いたらそこには人ではなく本が立っていた。
「日本コミューン主義の系譜」って書いてある。知らない人の本だ。
本に呼ばれる経験をしたのはそれが初めてのことだったので、これは何かあるに違いないと思い、迷わず買った。
家に帰って早速読み始めた。
大学の授業以外でそんな固い本(思想書とかの類い)はあんまし読んだことなかったので、なかなか頭には入ってこない。理解するのが困難だ。
だけど、どういうわけだか、心はドキドキワクワク、ページめくるたびに胸元あたりに雷鳴が轟く。
つまり、この作者、渡辺京二の語り口にやられたのだ。読んでてものすごく心地いい。

それで、その当時(30年前くらい)手に入る彼の本を可能な限り集めた。
おそらく、語り口はもとより、その思想が自分の性分に合っていたのだろう。どれを読んでも面白かった。
彼を介して、宮崎滔天や北一輝、ドストエフスキーやパステルナーク、それまで名前さえ知らなかったような人々をよく知るようになった。彼らが己が身のすぐ傍で息をするようになった。

さて、ある日のこと大学の研究室で彼の本の一冊を読んでいると、学部の先輩のひとりが近づいてき「あ、それお父さん」と言った。
彼女、渡辺さんの娘だったのだ。
「父の本なんて読む人少ないから、きっと喜ぶわ...」

と、そんなわけでしばらくして熊本市内にあるお家にお邪魔しておしゃべりしたり、彼が作家の石牟礼道子さんらとお寺でやってる勉強会なんかに時々顔を出すようになった。
イリイチ、バタイユ、オング、ウォーラーステインに見田宗介...会で取り上げる本は、難しいけどなんでかしらんどれも面白かった。
勉強以外も、当時、講義なんかでよく使われていた光学機器を「おーばーへっど...」と不思議そうに見る石牟礼さんに渡辺さんが「ああた、”オーバー”は”上”、”ヘッド ”は”頭”。頭の上を通ってモノば写す機械たい」と説明するのを傍でニヤニヤしながら聞いていたり、勉強会の後、檀家さんや不登校の青年など寺に集う人々交えて行う飲み会に参加するのも楽しかった。

のち、福岡に住みながら都合の良い時だけ熊本に行ってると「電車代は私が出すから毎週出て来んね」と渡辺さんに言われたことがあった。
その時は「本業(絵描き)があるので...」とスーパー生意気かつ横着に辞退しつつも「おお、自分のことを買ってくれてるのか」と内心喜んだけど、同様の物言いを他の青年らにもされていたことを伝え聞くなら、何のことはない、己に多少なりとも共鳴してくれる若輩者が珍しく、不意に体をすり寄せてきた野良猫みたい、ただ無性に可愛らしかったのだろう。

さて、上に掲げたのはそんなある日、「うちに一冊残っとったのであなたに差し上げます」と言ってくださった彼の最初の著作「小さきものの死」の表紙ウラだ。(”太田”はアジサカの本名)

たとえサインがなくとも、知らない人が書いていたとしても、一冊の書物としてその中身が自分にとっては一番大切な本である。
繰り返しになるが何故かしら性に合っていたのだろう、この本を起点としてやたらと自分の世界が広がった、つうか深まった。

「春個展’23のお知らせ」

昨年に引き続き、長崎での個展を行います。
展示するのは「西郷さんシリーズ」から選んだもので、数年前に福岡でおこなった同シリーズの第一回個展「南の島からの反逆者」の続編となります。

タイトルは「ETERNAL DREAMER~久遠の夢想家~」としました。
作品数は約60点で、前回展示の作品と未発表の新作が入り混じったものになる予定です。

展示会場となるのは例年の如く、窓下に出島を見下ろすとても古いビルの一室。
花見がてらにでも、ふらりとお越しいただければ幸いです。

尚、”西郷さん”については以前ブログに書いた文章をご覧ください→アルヒノオト

アジサカコウジ春個展2023
西郷さんシリーズII
「ETERNAL DREAMER~久遠の夢想家~」

日程:2023年4月1日(土)~23日(日)
( 会期中の金、土、日)
時間:13:00-19:00
場所:List:(リスト)
長崎市出島町10-15 日新ビル202
TEL :080-1773-0416

*会期中はたいてい在廊しております。

「冬個展2022のお知らせ」

昨年末に引き続き、福岡は大手門にありますギャラリーEUREKA(エウレカ )にて個展を行います。
前回夏の個展が花の絵でしたので、今回は車の絵、加えて女性を主体としたポートレートを展示いたします。
ほとんどが初披露となる新作で、人と車の絵が半々、およそ70点が並びます。
タイトルの「ENZIN(エンジン)」についてですが、これは音の響きが人と車の両方を想起させるということで、何となくつけました。
年越しのお忙しい時期とは思いますが、ひょろり立ち寄っていただければ望外のしあわせであります。

尚、車のことについて短い駄文を書きました。
お暇な方はどうかこちら(→アルヒノオト)をご覧ください。

アジサカコウジ冬個展 2022
「ENZIN (エンジン)」

会期:2022年12月10日(土)~2023年1月9日(月)
時間:13:00-19:00
休日:月・火曜日、12/26~1/5
場所:EUREKA 福岡市中央区大手門2-9-30-201
TEL:092-406-4555
※期間中毎週土・日曜はアジサカが在廊しております

「小さな車」

昭和の9年に生まれた父は、今年の6月で88歳。年相応に身体も頭もヨボヨボだ。
先月、久しぶりに実家へ帰った際、縁側でうたた寝してるのを引っ張り出してきて五目並べをやった。
そうしたら結構できたので、「まだそんな頭の残っとらしたね」と、父より六つ年下の母が感心していた。

戦後間もなく工業高校を卒業した父はバス会社に就職、定年までそこの観光課で働いていた。
最後の役職はどこかの営業所の所長だった。
そんな父の歴代の車を古い順から並べていくと、スバル360→スバルR2→マツダシャンテ→ダイハツクオーレ→トヨタスターレット→トヨタヴィッツ。
最初の4台は軽で、最後の2台は1000ccくらいの小型車だ。
”所長さん”なんだから、もうちょっとおっきな車に乗らんとカッコがつかんばい、という周囲の言葉なんかは気に留めず、「故障せんでしっかり走ってくれりゃそれでよか」と免許証返すまで、ずっとちっちゃな車を運転していた。

ちっちゃな車といえばもうひとつ印象に残っている記憶がある。
数年前、大分で田舎暮らしをやっている旧友から、かつてトヨタで自動車のデザインの仕事をしていたという近所に住む初老の男性を紹介された。
聞けば、名だたる昭和の車のデザインに関わってこられた方で、当時の現場の様子や、現在アドバイザー的な役目を引き受けているレクサスのデザインのことなど、いろいろ話を伺った。
とっても面白かった。
自分みたいな素人のとぼけた質問にもスッキリ明快に答えてくださって、「ううむやはり一流の人は凄かばい...」とひとり頷いた。

で、興味津々に「ところで今はどんな車に乗ってらっしゃるんですか?」と聞いてみた。
「あ、ダイハツの軽です」
クラウンとかレクサスとかのいわゆる高級車、もしくはデザインの美しい西欧の古い車とかに乗ってらっしゃるものだと思っていたので、びっくりした。
「だって小さいので十分事足りますから...」

さて、自分自身のことについていうならば、もうかれこれ30年以上、車を所有していない。
学生時代は分不相応に初代のアウディ100なんかを転がしていた。
最後の車は、パリに住んでた20台後半にごく短い間だけ乗っていたフィアット126。
この車には苦い思い出ばかりで、それが主な理由で生涯車は持たないことに決めた。

とは言っても、必要とあらばレンタカーを借りて乗るし、かっこいい車を眺めるのも好きだ。
好きなんだけど、最近はかっこいい、味のあるデザインの車をとんと見なくなった。

それでここ数年、人物や花の絵を描く合間、「ああ、こんな車があったらいいのになあ...」と思って筆を動かしていたんだけれど、気がついたら、そんな車の絵が数十枚になっていた。
せっかくなのでまとめて展示することにした。
「でも、車の絵だけじゃあ物足りないよなあ...」
ということで、最近描いた人物画も同じ数くらい並べることにしました。
全部で70点くらいの展示になる予定です。

アジサカコウジ冬個展 2022
「ENZIN (エンジン)」

会期:2022年12月10日(土)~2023年1月9日(月)
時間:13:00-19:00
休日:月・火曜日、12/26~1/5
場所:EUREKA 福岡市中央区大手門2-9-30-201
TEL:092-406-4555
※期間中毎週土・日曜はアジサカが在廊しております