冬個展2020のお知らせ

一昨年、去年と引き続き、年の瀬は福岡は大手門にあるギャラリーEUREKA(エウレカ )にて個展を行います。
展示するのは近年描きためた大小様々な人物画ばかりを一挙に120点。

人物画ばかりになったのは、ここしばらく気軽に外出もままならず人恋しかったのと、ネット上などで垣間見る人々の顔がとてもつまらなく感じたのとで、気がついたらば「ああ、こんな人がいたらいいのにな、会いたいなあ...」と思うような人の姿ばかりをたくさん描いていたからです。

で”こんな人”ってどんな人やねん?というと、それは大勢に流されぬ狷介不羈(けんかいふき)な人、つまり自由人(”ロック”な人)のことです。
ひとまず描き終わって並べてみたなら図らずも年若い女性の姿が多くなっていました。おそらくは総じて彼女らの中により自由な心、ロックな心が強くあるからなのだろうと思います。

個展のタイトルは往年のヒット曲「星影のワルツ」をもじりました。

期間中、土日は会場におりますので、未だかような状況ですが、ひょろり立ち寄っていただければ望外のしあわせであります。

アジサカコウジ 冬個展 2020
「面影ロック」

会期:2020年12月5日(土)~12月27日(日) (月・火曜休み)
時間:13:00-19:00
場所:EUREKA 福岡市中央区大手門2-9-30-201
TEL :092-406-4555
※期間中毎週土・日曜は作家が在廊

炊飯器

15年くらい前、まだベルギーはブリュッセルに暮らしていたときのこと、数週間ばかりイタリア旅行に行って帰ってきたら世話していた植物が枯れてしまっていた。うっかりしていたのか、水やりを頼むつてがなかったのかもう忘れちまったけれど、部屋が侘しいので朝市に新しい鉢植えを買いに行くことにした。

久しぶりに行くとちょっぴり様変わりしていて、以前はなかったキノコ専門の店が出ていた。いろんな色、形に大きさ、ぬめり具合...山積みに並んでる。よだれが出てきた。料理法も決めず、何周類かを袋詰めにしてもらった。「えっ?」値段を聞いてたじろいだ。中に”高級”なやつが混じっていたのだろう...まあいいやキノコは健康にいい、たまに贅沢もいいさ。

ひしめく買い物客の間をぬって、食べる前からなんだか満ち足りた気分で歩いた。歩いてるといろんな電化製品を山積みしてる店があり、中腹あたりに真っ白い炊飯器を見つけた。当時海外でよく見かけたスイッチが一個だけのシンプルなものだ。米はそれまで鍋で炊いていたんだけど、キノコらもあることだし(炊き込みごはんが即座に脳裏に浮かんだ)これを期に買い求めることにした。

フランス語で何ていうのか分かんなかったので「それ下さい」と指差して言うと、おそらくは東欧のものと思われるくぐもったなまりのある男が、「いいけど、これはいったい何につかうんだ?」と聞いてきた。「ああ、これかい、これはね...」と話はじめると驚いたことに彼は(自分の売り物だというのに)炊飯器のことを知らぬばかりか米というものを食べたことがないらしい。想像するに彼は専門の電気屋さんではなく、たまたま流れで(先に移住した同郷の先輩の勧めかなんかで)キノコやジャガイモ同様、”仕入れて金になりそう”だから店を出していたのだろう。”商品知識”だとか”マーケティング”云々という今の時代に、ああ質朴でいいよなあ...と傲慢にもそう感じた。傲慢にもそう感じたそのままの人柄であったので彼のことを好ましく思い、何でか彼もこっちのことを気に入って、いつの間にやら翌日夕方、彼の家に日本料理を作りに行くことになった。傍らで手伝っていた8つくらいの娘がそれを聞いてとてもうれしそうにしていた。

翌日、日本の食材店へ行き材料を買いそろえた。日常いつも食べる家庭料理をぜひというので、献立は白御飯、大根の漬け物、豆腐の味噌汁に肉じゃがにした。(経験的にどの品も異国の人にはけっこう難易度が高い)夕刻になり、材料を背に書いてもらった住所を頼りに中央駅近くのアパートへ出向いた。螺旋階段を4階まで上がって中に招き入れられると彼らは父と娘、ふたりきりで生活しているらしかった。早速、小さくてよく片付いた、というか物のほとんどない台所を借りて料理を始めた。父親は電話で誰かと話しを始め、娘は遠巻きにこちらを見ている。慣れぬ調理道具の手触りと音、窓からは秋の柔らかな西陽、聴き慣れぬ東欧のことば、そいでもって 娘のとってもうきうきしてる気配...なぜかしら手を動かしながら背中あたりに奇妙な幸せ気分が滲み出てきた。

小一時間ばかりで用意ができた。「じゃあ、そろそろ食べようか」そう呼びかけると「わお」とか何とか発しながら父娘がおそらくはイケアであろう明るい白木のテーブルについた。カタンカタンと作ったものを並べる。
と、娘の表情がほんの一瞬くもった。
ん?あ、そうか、並べられたものの姿や臭いが期待外れでがっかりしたのだな。しまったかなあ...

「ボナペティ(いただきます)」
箸はないのでフォークとスプーン。父親はうんうんぶつぶつ何やら言いながら食べている。娘はというと、まずは並んだものをひと口ずつ食べ、それらが自分にとって極めて不味いものであることを確認。かつ、不味いけれども、この状況で食べ残しをしたりすることは許されぬことを覚悟...意を決して食べ進め中。とまあこんな様子であった。

食べてる最中、ほとんど会話らしいものがない。いささか気まずい。味噌汁も肉じゃがも、我ながら上手くできたのになあ....しばらくすると娘が失礼といって台所にたつとコップになみなみと水をついできた。どうしようもなくなったら噛まずに喉に流し込もうという作戦らしい。我娘が幼い時分、ゴーヤを食べるときにやっていた方法だ。

さて結局のところ、このポーランド人の父娘は時折こちらに向かって微笑みながら、両人ともごはんつぶひとつ残さず見事に全部たいらげた。少しは残してしまうだろうと想像してたので驚いた。おそらくはこのような時にはこのように振舞うのが彼らのしきたりなのだろう。そう勝手に思い、感心した。
帰り際、玄関先で二人は揃ってあらたまり「珍しいものを食べさせてくれてありがとう」と丁寧に礼を述べた。「どういたしまして、よく食べてくれてうれしいです」と返したあと足元に、来る時には気がつかなかったけど、大きな鉢植えがあるのが目にとまった。

ああ、そういえば昨日は、もともとは鉢植えを買うつもりで市場に行ったのだった...
すっかり忘れていた。

*冒頭に掲げた写真は当時住んでたブリュッセルのアパート、窓外の風景です。ベルギーなのでもちろん曇ってる。
と、いうことで今回の曲は、彼の国が誇るジャック・ブレルの歌声をどうぞ。

Le plat pays」Jaques Brel