白土三平の漫画「カムイ伝」には幾度となく、百姓や非人たちが手に手に武器を取り、大岩の影や大樹の下に集合する場面が描かれる。
圧政を行う統治者に抗うため、反乱の決起をしている場面だ。
それが何十年も前から心に焼き付いていて、いつか自分もそんな絵を描いてみたいなと思っていた。
そうして念願かなってやっとできたのが、上に掲げた作品です。
今回のこの一揆を主導するのは田中正造翁。
5年前に描いた彼のヘンテコな肖像画同様、画面の中央右下に紫のアイリスの姿で表現されています。
ところで白土三平の漫画作品について詩人の鈴木志郎康が面白いことを言っていた。
(ったってずいぶんと古く、半世紀も前のことだけど...)
白土作品、以前は好んで読んでいたけど、最近は読まなくなった。なぜなら、彼の作品では異常な能力を持った忍者や剣豪、
あるいは金剛不壊の意思を持つ一揆の主導者など、いわゆるヒーロー、つまり強者ばかりに焦点が当てて描かれている。
自分などのような意志薄弱で体力もないような人間は、白土漫画でいうならさしずめ「うぎゃーっ」とか「ぐうう...」と呻きながら、
コマの端っこで死んでゆく脇役以下の虫ケラみたいな人間だ。
そんな”強くなれない”人間からしたら、強者だけが活躍する物語は、読んでるとだんだんうんざりしてくる。
といったような内容だったと思う。
察するに、強きをくじき弱きを助けるヒーローもまた”強き者”であることには変わりない。
俺はそんな強いヤツの話にはうんざりだ。弱いやつの話が聞きたいぞ。
っていうのが鈴木の言い分なんだろう。
そういえばアクション映画を例にとるならば、主人公や悪役の車が街中や市場なんかを駆け回るカーチェイスはお決まりの場面だ。
そういうのを見てていつも思うのは、ああ、自動車事故に巻き込まれたり、屋台や店を壊された人たちは大変だろうなあ...ということだ。
確かにヒーローたちのドタバタに巻き込まれ、無駄に死んだり大怪我をした人、迷惑を被った人間の姿は、たいていの映画や物語では描かれない。
無論そんなもの描いたって、話としてはつまらないのだから仕方がない。
けれども、才や力のある少数のヒーローばかりが頼りにされ活躍する話に、”気分が悪い”と感じる鈴木志郎康の心持ちには共鳴できる。
と、まあ、そんなわけで、その「うぎゃーっ」とか「ぐうう...」と呻きながら死んでゆく人、
民俗学者宮本常一の言葉を借りていうなら”忘れられた人々”を、花になぞらえて描いたのが今回の展示作品群です。
アジサカコウジ冬個展2024
〜花と怒りⅡ〜
「忘れられた人々」
会期:2021年11月9日(土)~12月1日(日)
時間:13:00-19:00(24日は18時まで)
休日:月・火曜日
作家在廊日:土・日曜日
場所:EUREKA 福岡市中央区大手門2-9-30-201
TEL :092-406-4555