春個展のお知らせ

そんな突拍子もないこというのはあんただけだと本人は否定するだろうが、いしだあゆみに似た女が長崎にいる。
雑貨や服を扱う店(兼、貸しギャラリー)を長年一人でやっている。
ちなみに横浜にはサミュエル・L・ジャクソン(いしだあゆみと同じ歳)に似た本屋の男がいるけど、今回は登場しない。

年が明けてしばらく経った頃、今年は久々に毎年旧正月に長崎で開催されるランタン祭りに行ってみよう、と思い立った。
夜は現地の友人らを誘ってうまい中華を食べることにしよう。
良さそうな店が一軒あるけど、さて、あそこは大人数の予約ができたかな...
あ、そうだ確かいしだあゆみがそこの常連だったぞ、彼女に聞いてみよう...

久しぶりに電話した。
けど、忙しいみたいで繋がらなかった。
また明日にでも電話しよう...と寝て起きたら深夜にメールが入っていた。

「アジサカさん、久しぶりー!そろそろ連絡あると思っとった。個展の件やろ。うちがこの春、比較的長く空いてる期間は以下の通りよ...」

昨年の秋くらい、ギャラリーの空き状況を尋ねたので、てっきりその電話だと勘違いしたらしい...

しょうがないなあ...あ、でも今まで長崎で個展やったのは真夏か真冬ばかり、春にやるってのもいいかもな。
花咲く季節。さぞかし気持ちいいだろうなあ...
ようし、この際だ、個展やらせてもらうことにしよう。
と、いうことで来月末から個展をやることになりました。

展示作品はここ2、3年の間に描いた新作で、長崎で発表するのは初めてのものばかりです。(他所で展示した事あるのと、まったく初公開なのが半々くらい)
作品は主に女性のポートレートで、”港町の安宿に居合わせた女たち”という設定にしました。
彼女らはみな一様に根無し草、さすらいの一匹狼ということで、「港町浪狼楼」というタイトルです。
アジサカの名が漢字表記ですが、これはこの街に多い中国や韓国からの訪問者により受け入れやすいと思ったからです。
福建省の老人会御一行とかドヤドヤ来てくんないかなぁ...

会場となるのは例年のごとく、窓下に出島を見下ろすとっても古くて趣深いビルの一室。
花見がてらにどうかふらりとお越しください。
期間中、会場にはたいていアジサカがおります。

日程:2019年3月30日(土)~4月21日(日)
( 会期中の金、土、日)
時間:13:00-19:00
場所:List:(リスト)
長崎市出島町10-15 日新ビル202
TEL :080-1773-0416

今回の個展、テーマ曲はもちろんこれだ!

「かもめ」淺川マキ

そしてこれも!

「Amsterdam」Jacques Brel

 

 

合唱

二十代の終わり頃はフランスに住んでいて、観光ガイドや家庭教師、皿洗いなんかの他、セレクトショップのバイヤーの真似事みたいなこともやっていた。
毎年2月のこの時期になるとパリではプレタポルテのサロンが開かれる。
でっかい球場みたいな広さのホールに数百のブランドのブースがひしめいていて、それらを一つずつ見て回り、これはと思うものを注文するのだ。

えもいわれぬ美しい柄のシャツに、びっくりするくらいなめらかな羊皮のコート、こんなん誰が着るんやぁと思わずつぶやく男物極小下着...どのメーカーも服作りにこだわっていて見ていて飽きない。

その年は湾岸戦争の翌年であり、地球の温暖化が人々の口の端に登りはじめた頃でもあったので、エコロジーを大きく掲げたり、平和や愛をテーマにしたTシャツなんかをつくってるとこが少なからずあって、どこもたいそう賑わっていた。

さて、そんなサロン初日の帰り、日本から出向してきた人々をシャンゼリゼのホテルまで送って行った後、パリを横切る2番線のメトロに乗った。
帰り際に目にとまったシルクのシャツのブランドのことなどを考えていると、ピガールにきたところで、どんな人種かわからないほどしわくちゃで酒焼けした男が、まるで象の肌のようなコートをずるずるひきずって乗り込んで来た。
ボックス席にずさっと座ると、酒と煙草でつぶれた声で何か低く叫びはじめる。
「L’amour,l’amour,avoir l’amour…(愛だ、愛が必要だ)」とくり返している。

けっこう混んでたんだけど、強い臭いを放つ彼の周りには人が寄らず、誰もが知らぬふり。
自分はというと、相変わらずさっきのシャツのことを考えていた。

さて地下鉄が次の駅に着くと、とっても長いスカートをはいた十四、五歳くらいの女の子が入ってきた。
真冬だというのに素足に破れた草履をつっかけている。

入るなり彼女は、しわがれ声で愛を叫ぶ男を見た。
見たけど、男にはかまわずよく通る大きな声で乗客に、父親が蒸発し、病気の母がいることを告げると、すぐさま静かに、少し投げやりな感じで故郷のものだという唄をうたいはじめた。

一方、彼女がそうしている間にも、例の男はずっと叫び続けていたのだけれど、彼女が歌い始めると、そのよく響く声に負けぬようにと、次第に” L’amour”という叫びを大きくしていった。
女の子の声がかき消されそうになる。

すると何を思ったか、女の子も男に負けじと、音程などかまわずあらん限りの声をはりあげはじめた。
うわ...
2人の強くて異質な声が激しく混じり合う。
「愛だ!愛だ!」という浮浪者の叫びと、ジプシー女の歌が一体化する。竜巻となってうねり、狭い車両に荒れ狂う。
他の客はどうだか知らないが、こちとらは身体が無性に熱くなり、彼らの歌の中に溶け混んでいってしまいそうになる。
うわわわ...

と、いきなり冷たい空気が車内に流れ込み、強い光が差しこんできた。
メトロがTATI(安売り服屋)の前、地下から地上に出たからだ。

はっと我に帰っていると、間もなくキキィとうなって、次の駅バルベスに着いた。

女の子は突然唄をやめると、何も乞わずに車両を飛び出す。
男はと見ると、まだ低く” L’amour,l’amour”と叫び続けていたんだけど、二駅過ぎたくらいで深く寝入ってしまった...

それからずっと、プレタのサロンが終わるまで、彼らの歌が両の耳にこびりついて離れなかった。

今も、毎年この時期になると必ず思い出す。
そして身体が少しあたたまる。

金子文子シリーズ その26

「得度して 袈裟の代わりに 三つ揃い いなせにきめて 南無阿弥陀仏」

ところで、突然ですが、3月30日(土)から4月21日(日)、長崎は出島のとってもいかした古いビルの2階で個展をすることになりました。週末の金、土、日のみ開催する予定です。めちゃ心地よい季節、花見がてらにふらりお越しください。詳細は後日お伝えいたします。